【労働時間管理】スタートアップ特有の「長時間労働」と「固定残業代」の崩壊リスク

「創業期なんだから、徹夜してでも事業を伸ばすのが当たり前だ」。

その熱量は素晴らしいですが、それを従業員に求めた瞬間、会社は労働基準法という地雷を踏み抜きます。経営者の理屈は、労働者には一切通用しません。

現場で最も悲惨なのが、良かれと思って導入した「固定残業代(みなし残業)」の崩壊です。
「給与を高めに設定しているから、残業代は込みだよね」という経営者の甘い認識は、労働基準監督署や裁判所では100%否定されます。

雇用契約書や給与明細で「基本給」と「固定残業代」の金額が明確に区分されていない場合(例:月給30万円・残業代込み)、法律上は「30万円全額が基本給」とみなされます。

その結果、元々の30万円をベースに割増計算された高額な残業代を、最大3年分さかのぼって請求されるという悪夢が現実になります。1人あたり数百万円の請求となり、数人が束になれば会社は一撃で倒産します。

超実務的な防衛策はただ一つ。
契約書に「基本給23万円、固定残業代(40時間分として)7万円」と1円単位で明確に切り分けること。そして、40時間を超えて残業させた分は必ず「追加支給」することです。

気合や根性で労働法はハックできません。正しい労務の初期設定こそが、最強の会社防衛術です。

みなし残業代制度のメリットはなに?

みなし残業代制度があれば、残業時間をカウントしなくて良いわけではありません。
必ず残業時間をカウントしなければなりません。

では、みなし残業代のメリットはどこになるのでしょうか?

最大のメリットは、次の点です。
①毎月の人件費が固定化され、キャッシュフローの予測が立つこと。
②「早く帰っても残業代が保証される」ため、残業代稼ぎのためのダラダラ残業を防ぎ、効率よく働く優秀な人材への採用アピールになること

固定残業代の「NG(区分なし)」と「OK(区分あり)」計算比較表

【前提条件】

  • 表面上の月給:30万円
  • 月の所定労働時間:160時間
  • 実際の残業時間:40時間
項目【絶対NG】区分していない場合
「月給30万円(残業代込み)」
【合法OK】区分している場合
「月給30万円(基本給22.5万円+固定残業代40時間分7.5万円)」
法律上の「基本給」30万円全額が基本給とみなされる22.5万円が基本給となる
残業代の計算ベース
(基礎時給)
30万円 ÷ 160時間 = 1,875円22.5万円 ÷ 160時間 = 1,406円
割増時給(1.25倍)1,875円 × 1.25 = 2,344円1,406円 × 1.25 = 1,758円
40時間残業した際の
本来の残業代
2,344円 × 40時間 = 93,760円1,758円 × 40時間 = 70,320円
毎月発生する
「追加の支払い」
毎月 93,760円の未払いが発生
(「残業代込み」という言葉は法的に無効なため、30万円とは別に全額支払う義務が生じる)
追加支払い 0円
(固定残業代として支給している7.5万円の中に収まっているため、追加払いは不要)
経営のリアル
(3年遡られたら…)
退職時に約337万円(9.3万×36ヶ月)を一括請求される地雷となる。残業が40時間を超えない限り、毎月の人件費は30万円に完全に固定される。